「公証役場(こうしょうやくば)」というものがあります。
公証役場を主に使うのは、弁護士先生や司法書士先生といった、法律家の先生方です。
ですが、税理士が公証役場とは無関係である、とはいえません。
税理士と公証役場との関係について少し考えてみました。
※ある公証役場の入口(本文とは関係ありません)
公証役場とは、どんなところか?
公証役場とは、どんなところでしょうか?
※「公証役場」で検索すると、「日本公証人連合会」のホームページがありますので、そちらも参考にされるといいと思います。
公証役場には、「公証人(こうしょうにん)」と、その公証人の業務を補助する「事務員さん」がいます。
※公証人とは、元裁判官や、元検事といった、絶対に嘘をつかない(であろう)、お立場のある方々です。
そのような立派な方が関与して書類を作成するので、その書類に間違いはないはず。
その、間違えてはいけない大切な書類を作る場所、といった意味合いの役所になります。
具体的には、公証人は、次のような事務を行います。
※税理士が関係しそうなところだけ、ピックアップしてみました。
遺言書を作る(公正証書遺言)
ご存じの方も多いと思いますが、遺言書には大きく分けて、次の2つがあります。
- 自分で書く遺言書
- 公証人が関わる遺言書(公正証書遺言)
公証人が関与する遺言書が「公正証書遺言」になります。
実務上は、原案(原稿)を作って、そちらをもとに何回かやり取りして作成することになります。
私がオススメしているのは、まず司法書士先生に相談するというものです。
というのも。司法書士先生は、ご自分の事務所近くの公証役場に、だいたい、知り合いの公証人がいるからなんです。
お互い、知り合い同士であれば信頼関係ができあがってますから、スムースに遺言書が作れるので、オススメです。
※ただし、遺産規模が大きい場合は、税務問題が生じないか、最終案を税理士にチェックしてもらうと良いかもしれません。
遺産分割協議書を作る
遺産分割協議書は、普通は公証役場は関与せず、自分達で(または税理士事務所や行政書士先生が)作成することが大半でしょう。
ですが、公正証書で遺産分割協議書を作ることも可能です。
では、どのような場合に、公正証書で作るのでしょうか。
例えば、高齢の相続人がいて、今はすごく元気で認知能力(=きちんとした判断力)もあるが、数年後に争いそうな場合は、その高齢の相続人が、(遺産分割当時は)きちんとした認知能力があったという、一定の証明になるかもしれません。
※実務上、そのような公正証書で作成した遺産分割協議書を見かけたこともあります。
また、公証人が法的問題がないように、遺産分割協議書の書式を確認してくれるので、必ず一回で遺産分割を終えたい、という方もいいかもしれません。
ただし、費用と時間がかかりますから、普通は自分達で(公証役場に依頼しないで)作成することが大半でしょう。
定款認証
会社(法人)を設立する際は、会社定款(会社の規則をまとめたルールブック)を作成して、法令に違反していないか等を、法律の専門家(=公証人)にチェックしてもらうことになっています。
これに約5万円くらいかかります。
ただ、この情報化時代。会社設立のために定款を作ることは理解できても、そのチェック(そんなに時間をかけてないと思いますが・・・)に5万円かかるって、どういうことなんでしょうか?
「定款認証は、公証人の既得権ではないのか?」
と言われるゆえんです。
※会社設立が終わると、司法書士先生から、定款認証後の定款データを、CDでもらうことがあります。まあ、ほとんど見ませんけど(^^)
会社設立登記は司法書士先生のお仕事ですから、税理士が直接関わることはありませんが、定款認証の流れ、仕組みは理解しておく必要がありますね。
確定日付
「確定日付(かくていひづけ)」とは、その書類がその日付時点で確かに存在したことを証明する、「日付のハンコ」です。
※ある公証役場で、自分の書類に押してもらった確定日付印。
税理士が確定日付を使う場合とは、次のような場合でしょうか。
- 贈与契約書
・・・親から子へ金銭等の贈与をする場合 - 債権譲渡通知書
・・・自分の会社への貸付金(会社側から見れば借入金)を子供に贈与する場合
贈与契約書に確定日付が必要かどうか、議論が分かれるところではありますが、私は基本的には必要ないと思っています。
というのも、金銭贈与の場合は、きちんと贈与が履行(=親が、子が実際に使っている口座へお金を振り込むこと)されていれば、通帳で履行日付が確認できますから。
ただ、預金と違って、実際の動きが証明できない資産もあると思います。
※例えば、同族会社の株式を親から子に贈与する場合や、債務免除(=債務免除にも贈与税がかかります)の場合は、目に見える資産が動きませんから、場合によっては、もらっておいた方が、後日、税務署と争ったときの証拠になるでしょう。
また、債権譲渡通知書ですが、こちらは民法で確定日付を押しなさい、となっています。
というのも、債権の二重譲渡を防ぐためです。
例えば、つぎのような場合があります。
- AさんがBさんにお金を貸している
・・・AさんがBさんに対する「貸付金」を持っている - Aさんが、この貸付金をCさんにあげることにした
- Aさんは、この貸付金をDさんにもあげることにした(二重譲渡?)
この場合、CさんとDさんの両方が、
「(Aさんからもらった)この貸付金はオレのもんだ!」
と争うことになりますが、この場合、どちらが先なのかをハッキリさせるためなんですね。
そのため、自社への貸付金を、親から子へ贈与したい場合は、債権譲渡通知書(または承諾書等)を作成し、確定日付を押印しておくことが、民法上は正しい手続きになります。
※確定日付を押していないからといって、直ちに税務署に贈与が否認されることはないと思いますが、できれば、正しい手続き(=確定日付を押印しておくこと)をしておいた方が良いと思います。
借用証書(金銭消費貸借契約書)
例えば、他人にお金を貸したら、借用書(正しくは「金銭消費貸借契約書」といいます)を作ることもあるかもしれません。
ですが、そのお金を借りた人が、お金を返してくれない場合、どうなるんでしょう?
この場合、まず「お金を返してください」とお願いします。
ですが、それでも返してくれない場合は、裁判を起こして返してもらうことになりますが、お金も時間もかかります。
ですが、公正証書で借用書(金銭消費貸借契約書)作ると、「強制執行」をすることができます。
※強制執行する、と書く必要がありますが。
強制執行になると、裁判所の執行官が借入した人の財産から貸付金を回収(強制執行)してくれますので、スムース?に回収を図れます。
なお、既にお金の貸し借りをしていて、その確認をする場合は、「債務確認公正証書」といったようなタイトルの文書になります。
税理士がアドバイスできること
税理士と公証役場との接点について確認してみました。
ところで、税理士は「税務」の専門家ですが、「法務」もある程度、理解しておく必要があると思います。
というのも、普通の中小企業の場合、顧問弁護士をつけるほど経済的余裕がないからです。
(公証役場に関係することで)税理士がアドバイスできることは、次のようなものになるでしょうか。
※私も法律の専門家ではないので、実行前に必ず弁護士先生、司法書士先生等の専門家にご相談ください。
公証役場で作成した書類には「強制執行」できること
さきほど説明したように、公証役場で作成した書類には「強制執行」を付けることができます。
例えば、顧問先の社長様が、取引先にお金を貸すとしましょうか。
その際、その取引先との関係にもよりますが、必ず返してもらいたい場合は、
「社長。公正証書で借用書を作ると、帰ってこない場合、取り立て(強制執行)できますよ。もし、そうされるなら、知り合いの司法書士先生や弁護士先生、ご紹介しますが・・・」
といった、先回りしたアドバイスもできるでしょう。
また、お金の貸し借りだけでなく、家賃や不動産売買代金の回収についても、強制執行を付けた公正証書を作ることにより、色々な工夫ができるかもしれません。
税理士も、その分野をある程度おさえておく必要があるかもしれません。
確定日付の押し方
贈与契約書や債権譲渡通知書に確定日付を押すこともあるでしょう。
そして、社長様や社員様が、公証役場に行ったことがない場合もあるので、どうやって確定日付を押すのか、税理士も知っておく必要があります。
その方法ですが、ただ、書類を公証役場に持っていくだけです。
※基本的に予約は必要ありません。
1枚につき数百円料金がかかるので、押してもらったら代金を払って終わります。
※押すのは、公証人ではなく、事務員さんが押すことがほとんどです。
ただ、押印前に一応、事務員さんが書類をチェックしています。
何をチェックしているのか、以前聞いたことがあります。
そのときの返答ですが、
「その書類に違法性がないか、確認しています。例えば、金銭消費貸借契約書で利息が法定利息を超えている場合(例えば20%になっている)は、違法なので、押せないことがあります。また、(物騒ですが)誰かを殺すや、モノを盗むといった文言が入っている場合も押せません」
とのことでした。
ですから、普通の書類の場合は、公証役場に書類とお金だけをもっていけばOKです。
※同じ公証役場でも、親切な雰囲気のところと、感じが悪いところがあります。同じ近さなら、感じがいいところの方に行きたいものですね。
遺言検索
たま~にですが、
「うちの亡くなったお父さん。確か、遺言書を作っているとか言ってた記憶があるね。でも、どこにあるんだろう。その遺言書。」
という場合があります。
この場合の遺言書が「公正証書遺言」の場合、公証役場で、その遺言書がどこで、いつ作ったのか、検索することができます。
具体的には、相続人の一人が、戸籍謄本(=自分が相続人であることを証明するため)や身分証明、印鑑等を持って、近くの公証役場に行きます。
※原則として、電話での事前予約が必要です。
そうすると、公証役場のオンラインシステムで、公正証書遺言があるのか、ないのか、ある場合はどこの公証役場に保管されているのかを検索してくれ、証明結果?の紙をくれます。
※費用はかかりません。ただし、最近(平成以降)の遺言書しか検索できませんが。
ですから、税理士も、お客様が遺言者を作っている可能性があるなら、そのようなアドバイスをする必要があるでしょう。
税理士と公証役場との関係について考えてみました。
考えてみると、税理士のカバーしなければならない分野って、すごく多いと思いませんか?
※全部、フォローしようとしたら、いくつ体があっても足りません(^^)
ですが、お客様のために何ができるのか?
常に、先回りして考えれば、色々な疑問点、アイデアが湧くはずです。
今日も一日、頑張りましょう!