相続税の計算は「財産の評価額×税率」となっています。
※本当は、もっと複雑ですが。
この「財産の評価額」が、くせ者です。
この世の中、財産の種類は無数にあります。
そして、相続税を計算する上で、一番難しいのが「土地評価」と呼ばれるものです。
この土地評価をする際の、資料の集め方について考えてみました。
※古墳の集落を散策中の筆者。
土地評価のために、なぜ資料を集める必要があるのか?
相続税は、財産の金額を決めることが大切です。
なぜなら、財産の金額が高いと相続税が高くなり、財産の金額が低いと相続税が安くなるからです。
※この、財産の金額を決めることを「財産を評価する」といいます。
ですが、みんながみんな、勝手に財産の金額を決めはじめたら、えらいことになります。
実際の市場価格が2億円の土地について、頑固者のおじいさんが、
「オレはこの土地が1億円だと思っている!」
と言い出したら、税務署も困ってしまいますし、何より、税金を公平にとることができません。
そこで税務署は「財産評価通達(ざいさんひょうかきほんつうたつ)」という通達(要は法律のようなものです)を作りました。
「この財産評価通達に基づいて財産を評価してくださいね」と、税務署が言っているのですから、これに基づいて全員が計算すれば、みんな公平になる、という訳です。
財産評価基本通達の内容を確認
その財産評価通達とは、どんな内容のものでしょうか?
ここに一覧が掲載されていますが、なんと200項目以上の題名が掲げられています。
また、内容も難しく、
「(容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価)」には、何やら、「容積率」や「建築基準法」といった、税金以外の用語が並んでいます。
つまり、土地を評価するためには、税金以外の法律・知識(例えば不動産関係の法律等)を身につける必要があるんですね。
これ以外にも調べることは多くあります。例えばですが、つぎのような内容です。
- 土地の利用状況(自分で使っているのか、貸しているのか等)
- 道路幅員(道路の幅は何メートルか?)
- どこが容積率の境となるのか?
- 都市計画道路の対象として削られる部分はないか?
- 借地権はあるのか、ないのか?
これらの情報を調べるため、
- 机上で調べられることは机上で調べる
・・・事務所内からインターネット検索する - 土地がある現地でしか分からない事は、現地で調べる
・・・土地を見て簡易測量する、土地を管轄する役所窓口で資料請求する
といった作業を行う必要があります。
ここでは、机上(=インターネット)で調べられることをまとめてみました。
インターネットで分かる資料とは?
土地評価を行うための資料ですが、色々なサイトに、色々な情報が掲載されています。
サイトごとにご紹介しましょう。
国税庁のサイト
国税庁のサイトでは、次の情報が分かります。
路線価図
「路線価図(国税庁)」に、全国の路線価図が掲載されています。
また、路線価地域にない土地は、「固定資産税評価額×倍率」で評価することになりますが、そちらは「倍率表」が必要になりますが、その情報も同ホームページ内に掲載されています。
※こちらの記事「路線価図の見方について教えてください」や「倍率方式の土地は、どうやって計算するのですか?」も参考にしてみてください。
奥行価格補正率表
「国税庁のサイト」に、奥行価格補正率等の一覧表が掲載されています。
※土地は、奥行きが長すぎる、形が悪すぎる、といった場合、減額することができます。その減額率を記載した一覧表になります。
こちらの数字は、数年~10年程度の期間で変更になることがあるので、最新のものをチェックするようにしましょう。
グーグルのストリートビュー
「グーグルのストリートビュー」は、既に皆さんも利用しているかと思います。
地図をクリックすると、現地の写真が確認できます。
こちらは、利用状況を確認するのには便利ですが、きちんとした評価をしたい場合は、やはり現地に行って確認する必要があります。
※高圧線が上に通っていないか、お隣との境界はどうなっているか、道路と接しているか、といった情報は、現地に行かないと分かりません。
セブンイレブンの住宅地図サービス
住宅地図を作成しているゼンリンが、住宅地図をセブンイレブンで印刷できるサービスを展開しています。
ここから印刷すると、写真右上のような住宅地図がA3サイズで印刷されています。
この住宅地図には、住宅であれば住人の名字が、賃貸マンション等であればマンション名が印字されてきます。
つまり、亡くなった被相続人が本当にそこに住んでいたのか、賃貸しているマンションが本当にそこにあるのか、といったことが机上で確認できます。
※正確には、インターネットで申し込みをして、近くのセブンイレブンに行って印刷する必要がありますが・・・。
国会図書館等に行けば、ブルーマップ(=住宅地図の詳細版。容積率も記入されているので、本当はこちらが欲しい)のコピーを取得することもできますが、まずは、この住宅地図を取得して、概要を確認すべきでしょう。
なお、細かなテクニックですが、プリントの位置指定をする場合は、中心点(目標点)から、少し右(または左)にずらすと、A3用紙を真ん中で折ったときに、目標点がしわになりにくいので、お薦めです。
登記情報提供サービス
ある土地について、本当にその人が所有しているのか?
この確認ために、不動産(土地・建物)の登記簿を取得する必要があります。
※相続税申告書にも、義務ではないですが、実務上は不動産の登記簿を付けることになっています。
これを確認するために「登記情報提供サービス」のサイトを利用します。
こちらでは、次の情報を取得します。
- 登記簿(土地・建物)
・・・誰がその土地建物の所有者か知るため
・・・その不動産が担保に入っているか、知るため - 公図(土地)
・・・その土地が、だいたいどの辺りにあるか知るため
・・・お隣さんとの位置関係を知るため - 地積測量図
・・・その土地の正確な形を知るため(登録されてないことも多い) - 建物図面
・・・その建物の形や作りをしるため(登録されてないことも多い)
このサービスの特徴は次のとおりです。
- 法務局に登記されている情報と全く同じものが印刷できる
- 有料である(1通取得するのに約100円~500円程度かかる)
- クレジットカード払いのため、クレジットカード登録が必要
法務局に登録されている登記情報と、全く同じ情報を印刷することができます。
※PDFファイルでダウンロードできます。
ですが、これは不動産登記簿の「原本ではない」ため、原本の提出が求められている手続き(例えば、土地の物納等)では、このPDFを印刷したものは使えませんので、ご注意ください。
このサイトの使い方は、登記情報提供サービスのサイト内にあるので、特に問題はないかと思います。
※細かなテクニックはあるんですが、ここでは省略します。
ですが、私が特に注意しているのが、画面右下の「共同担保目録」と「信託目録」のチェック欄です。
共同担保目録とは、次のようなイメージです。
銀行から1億円を借り、その人質?として、A土地・B土地・C土地を担保に差し出したとします。
そうすると、この3つの土地は連帯責任だとして、それぞれの土地の登記簿に、3つの土地が共同担保である旨の記載がされます。
※A土地の登記簿には、「B土地とC土地がA土地の共同担保に入っている」といった記載がされます。
つまり、共同担保目録にチェックを入れておけば、被相続人が共同担保でお金を借りていた場合、A土地の登記簿を取れば、
「あ、この人はA土地以外にB土地とC土地を持っているんだな!
と、気づくことができ、土地がもれている、といったことを防ぐことができます。
確か、記憶では追加料金もかからないはずですので(間違っていたらすみません(-_-))共同担保目録にチェックをいれておきましょう。
※チェックを入れる際は、真ん中のチェック「要」でお願いします。というのも、一番右の「要(現在事項)」としますと、現在有効な部分しか印字されず、過去の分が分からないことになってしまうからです。
また、不動産に信託を設定している場合も考え、信託目録にもチェックすべきだと思います。
※ほとんどの方は、該当しないでしょうが、念のためです。
東京都のサイト
「東京都都市整備局の都市計画情報のページ」で、東京都内の都市計画情報を確認することができます。
ここでは、
- 土地が都市計画道路にかかっているか?
- 鉄道の建設予定地になっていないか?
- 用途地域がどのようになっているか?
といった情報を確認できます。
最近は、各区役所のホームページでも見られる場合も多いのですが、まずはここで確認してみて、場合によっては、印刷しておくと良いでしょう。
区役所・市役所のホームページ
区役所、市役所のホームページで、以下の情報を確認できます。
※公開している情報、形態は、自治体ごとに本当にバラバラですが。
- 道路幅員
- 対象道路がセットバック対象道路なのか(建築基準法42条2項道路なのか)
- 道路が区道なのか国道なのか
- 都市計画道路の整備状況
- 遺跡発掘状況(埋蔵対象地になっていれば発掘費用が控除できる場合あり)
※役所に直接行かないともらえない資料(例:建築計画概要書)もありますが、ここでは机上で確認できる資料のみ説明しています。
各区役所、市役所、色々なサイトを作っていますが、私が充実しているな~、と感じるのは練馬区でしょうか。
こんな感じで、道路幅員も詳細に確認できます。
※レイアウトも使いやすいです。
また、遺跡の発掘情報も詳細に記載されていますので、親切ですよね。
この辺りの公開状況は、自治体の姿勢、予算にもよるので、あまり高望みは出来ませんがが、最低限、現地調査に行く前に、確認しておくべきでしょう。
インターネットの発達により、多くの情報を机上で(事務所内で)取得できるようになりました。
これは10年前にあれば、考えられなかった事です。
その分、我々の作業も早くなりましたが、法律がどんどん難しくなっているため、結局、かかる時間は、あまり変わらないのではないか、というのが私の実感です。
情報を簡単に取得できても、その情報をつなぎ合わせ、形にできるのは(=相続税をできるだけ安くできるのは)、我々税理士しかいないと思います。
お客様に貢献するため、ご自身の作業時間を短縮するため、できるだけ作業の効率化を図ってみてくださいね。