よく、不動産業者や税理士は、
「あの借地権は〇〇~ですね」
「あそこの借地権は××~だよな」
といった話しをします。
※私も、YouTubeでつぎのように「〇〇ですね~」としゃべっていますが・・・
しかし、不動産業者や税理士が、借地権というものを本当に分かっているのか、それはどうでしょうか?
実際、借地権というのは、難しい権利です。
というのも、
- 歴史的背景を知る必要がある
- 法律改正の経緯を知る必要がある
- 争うとどうなるか(法律はどうなっているのか)を知る必要がある
- 実際の取引現場の実態を知る必要がある
といったように、様々なことを知る必要があるんですね。
そこで、YouTubeで説明しきれなかった事項も含めて、借地権という権利を解説してみたいと思います。
※相続の仕事で、渋谷に行ってきました。若者だらけでした。
1-借地権の歴史
借地権は、明治後期頃から、その権利が確立されていきました。
ざっというと、こんな感じです。
(1)明治42年「建物保護ニ関スル法律」
今ではかんがえられないんですが、地主さんが他人に土地を売ると、借地人さん(土地を借りて建物を建てている人)は、新しい地主さんに権利を主張できず、最悪、出て行かなければなからなかったんですね。
これを利用して、いわゆる「地震売買」なるものも、行われたそうです。
ようは、仲の良い地主さん同士が共謀して、仮装売買をして、借地人を追い出そうという計画です。
これでは借地人さんが大変だということで、「建物保護ニ関スル法律」ができました。
借地人さんが自身の建物を登記していたら、新しい地主(第三者)に対抗出来る(権利を主張できる)ということにしたんです。
(2)大正10年「借地法・借家法」
ただ、これだけでは、まだまだ借地人さんの保護が足りません。
また、建物を借りている人(借家人)も、大家さんから追い出されることがしょっちゅうありました。
※ある、ものの本には、大昔の契約書で「子供ができたら借家から出て行くように」みたいな契約書もあったそうです。今なら人権問題ですよね・・・。
そのため、借地法だけでなく、借家法もできたわけです。
(3)昭和16年「法定更新制度」
借地権は「建物保有目的」の、土地の賃貸借契約です。
いわば、土地の貸し借りなので、当然、期限(賃貸借期間)があるわけです。
借地法では20年や30年と決められていましたが、建物を建てて住んでいるのに、20年で土地を追い出されたら、たまったものではありません。
そこで、法定更新制度が導入されました。
これは「正当な事由」がなければ、土地の賃貸借契約を更新しなさい、というものです。
この「正当な事由」は、よっぽどの理由でないと認められないので、事実上、建物がある限り、土地を半永久的に借り続けられることになりました。
(4)昭和41年「賃借権(借地権)の物権化」
借地権は他人に譲渡できますが、地主さんの承諾が必要です。
しかし、この法律改正により、地主さんの同意がなくとも、裁判所にOKをもらえば、他人に譲渡(売却)できるようになりました。
これを「賃借権の物権化」といいます。
弁護士先生からは、裁判所は、余程のことがなければ、基本的に借地権の譲渡を認める方向と聞きました。
そうすると、地主さんの方は、
「争っても、結局負けるから、他人に売ることをOKしなければならないか~」
と、半ば、諦めムードが漂うのです。
(5)平成4年「借地借家法」
ここまでは地主さんに、一方的に不利なターンが続きました。
ただ、そうすると、もう誰も土地を貸したくないですよね。
ですから、平成4年から借地借家法が施行され、定期借地権(数十年経てば必ず土地が戻ってくる制度)が設けられた訳です。
このような経緯を知らないと、地主さんはもとより、不動産業者さんの話しについて行けませんよね。
※渋谷センター街にて。だいぶ治安が改善されましたね(^^ )
2-借地権の特徴
借地権は、特殊な権利ですから、様々な制約があります。
ざっと挙げると、こんな感じになります。
(1)建物保有目的の賃貸借契約
借地権は建物ありきです。
単に土地を貸すだけの契約(例:駐車場)では、借地権は成立しません。
(2)第三者に借地権を主張(対抗)できる
借地権は、当事者同士(地主さん:借地人さん)では有効なのですが、前述のように、地主さんが他人に土地を売ってしまうと、借地人さんは新地主に対して、借地権を主張できない場合があります。
そのため、
- 土地へ賃借権の登記をする
- 借地人名義で建物の登記をする
上記のいずれかが必要とされています。
※こうしておけば、その土地を買おうと思っている第三者も、借地権があると分かりますから。
殆どは、「借地人名義で建物の登記をする」で、借地権の対抗要件を満たしています。
というのも、土地への賃借権登記は、地主さんの許可が必要ですからね。
なお、本当に希ですが、このどちらもやっていない場合があります。
そうすると、地主さんが土地を転売したとき、借地人さんは、新地主さんに借地権を主張できないことになりますので、早めの建物登記を進めてあげてください。
(3)半永久的な期間の賃貸借契約
前述のとおり、法定更新制度が導入されたので、建物がある限り、土地の賃貸借契約が続きます。
また、建物が古くなった場合、建替えが必要です。
地主さんの承諾が必要ですが、地主さんがOKをしないと、裁判等で争うことになります。
※どちらに転ぶか分かりませんが。
ただ、建替えOKの判決が出ると、また長い期間、借地権(土地の賃貸借契約)が続きます。
そういうことで、100年以上続いている借地権もよくあります。
(4)他人に譲渡できる
前述のとおり、「賃借権(借地権)の物権化」の影響で、借地権を他人に譲渡しやすくなってしまいました。
こうなると、借地人さんも、お金になるということで、色々と考える訳です。
(5)地代の支払いが必要
借地人さんは、地主さんに土地の使用料(地代)を支払わなければなりません。
大昔からの地主・借地人さんですと、「通い帳(かよいちょう)」というものがあって、借地人さんが、現金と通い帳を持参して地主さんを訪ね、通い帳に支払い済みの押印をしてもらう、なんてことがありました。
※まだ、その方式で行っている方もいらっしゃいますよ。
(6)更新料の有無
20年・30年ごとの、土地の賃貸借契約の更新にあたって、数百万円単位の更新料を支払うことがあります。
地主さんとしては、
「前回、200万円の更新料をもらったから、今回ももらえるだろう」
と考えますが、借地人さんは
「今回は払いたくないな~」
と考えるものです。
このあたりは、前回まで支払っていたのか、契約書等にどのように書いてあるのか、といったことが関係してきますので、間に入る不動産屋さんの説明が重要になります。
(7)契約書がない場合も多い
100年前から土地の賃貸借契約(借地権)が始まっているのであれば、契約書はない可能性が高いでしょう。
ただ、YouTubeでも説明しましたが、作成していない場合は、お互いの相続を機に作成をオススメします。
※続・渋谷にて。
3-財産的価値
借地権は財産的価値があるわけですが、どれくらいの価値があるのでしょう?
不動産売買の実務では、税務署が決めた「借地権割合」で動くことが多いんですね。
借地権を売りたい、買いたい、または共同売却したい。
こんなとき、単に相続税を計算するだけの割合が、売買のたたき台になってしまうんですね~。
この借地権割合ですが、路線価図に詳細にでてきたのは昭和48年頃なんです。
※昭和40年代前期の路線価図。
いまと違い、手書きです。
それだけでなく、路線価ごとに、借地権割合(CとかDとか)が付いていません。
なぜかと言いますと、ものの本によると、それまでは税務署に行って、個別に借地権割合を聞いていたそうなんです。
たとえば、「〇〇円以上のところは80%、〇〇円台のところは60%」みたいな感じです。
今と異なり、かなりざっくりとした割合ですよね。
ただ、税務署が借地権割合なるものを公表したので、これが売買等の基準になってきた、ということは周知の事実です。
※続々・渋谷にて。
4-底地(貸宅地)の所有者は?
地主さんは、どのような方がおおいのでしょうか。
YouTubeでも説明しましたが、私の感覚ですと、以下の方々が多いです。
- 地主様
- 寺社勢力(お寺や神社)
- 国(物納後のもの)
寺社勢力には気をつけなければいけません。
「地代が安すぎるので、いますぐ高くしてください!」
なんて檄文?が来たりすることもあります(^^ )
そんなお寺や神社が所有している土地の登記事項証明書をとると、抵当権が数億円単位で付いていたりなんかして、
「このお寺(神社)さん、何に使っているか分からないけど、相当、資金繰りが苦しいのではないか?」
と、余計な心配をしてしまいます・・・。
借地権について色々と書いてきました。
税理士でも、借地権について勉強している人は、ごく一部だと思います。
※今考えると、税理士受験校とか、宅建試験予備校の講師は、実務をよく知らないのに、「おれは借地権の全て知っている!」風に断言していました。でも、あんまり知らなかったんでしょうね・・・。
YouTubeでも説明しましたが、借地権は地主さんと借地人さんの利害が対立します。
双方が仲良しで話し合いがすぐ終わる、なんてことは、あんまりないのが現状です。
ですから、普段からのお付き合い、挨拶が重要になるわけですね。
税理士は、とかく、「借地権がある・なし」について、悩んでいます。
※それだけで、相続税の金額が大幅に変わりますから。
ですが、相続税申告で借地権がでてきたら、
「この借地権、今後どうされますか?どのようなお考えですか?」
と、一声掛けてあげるのが、税理士の役割といえるでしょうね。