税理士の仕事の一つに「悩みを聞く」 というものがあります。
人間誰しも悩みがあるものですが、資産家の方々は、資産があるが故の悩みがあります。
普通の方に相談できない内容も含まれるため、税理士に多くの相談が寄せられることになります。
私がこの業界に入って二十年以上経ちますが、私が経験した資産家の方々の悩みについて、税理士はどう考えるべきか、どう答えるべきか。
今回はこのテーマで考えてみたいと思います。
※守秘義務の関係で、 性別や年齢を変更して説明しています。
※築地にある波除(なみよけ)神社前にて。困った時の神頼みと言いますが、築地市場の移転に伴い、この神社も参拝客が減少していると思われます。神様(神社)も受難の時代といえるでしょう・・・。
資産家の悩みで多いものとは?
悩みを解決するためには、悩みを分類する必要があります。
私がざっと思いつくところでは、 以上のようなものになるでしょうか。
- 身体の悩み
- お金の悩み
- 家族の悩み
(1)身体の悩み
資産家は高齢の方が多いでから、どうしても体の悩みが付きまといます。
例えば、「病気で余命1年と宣告された」といった状況の場合、その後の相続が控えていますから、顧問税理士は、ご家族の状況をできるだけ把握しておく必要があります。
これらの身体の悩みについて、税理士が相談に乗る場合は、逆説的ですが、税理士もある程度、不健康な状態になる必要があります。
※要は、ある程度の年齢にならないと、お客様が「足が痛い」「腰が痛い」「心臓のバイパス手術をした」なんて悩みに、相槌が打てないのです。
身体の悩みについては、医師に相談しているでしょうから、税理士はその情報をメモし、今後の対策や、誰が相続させたいのかを、少しづつお聞きする必要があるでしょう。
ただ、ここで大切なのは「急ぎすぎない」ということです。
なかには、「オレはまだ死なない!」ということで、次の相続のお話しをされると、ご立腹される方もいらっしゃるからです(^^ )
ですから、お客様の目を見て、徐々に切り出す必要があるでしょう。
(2)お金の悩み
資産家の方から相談される悩みで一番多いのは、やはり税金でしょうか。
ただ、税金と一口に言っても、資産家の方は、中小企業の社長様とスタンス(考え方)が違うんですよね。
例えば、私が以前、資産家(地主様)についてから、このように言われたことがあります。
「石橋さん、あそこにある〇〇公園なんだけど、あの公園の何分の1かは、私やご先祖様が払った固定資産税で出来てると思うんですよね」
※正確には、固定資産税は東京都に収納され、公園は区の予算で作られていますから、違うと言えば違うんでしょうが・・・。
不動産を多くお持ちの方(地主様・不動産オーナー様)は、年間の固定資産税が数百万円以上(場合によっては1千万円以上)になることもありますから、お気持ちは推して知るべしでしょう。
また、別の不動産オーナー様(複数の不動産をお持ちの方)からは、このようなことを言われました。
「石橋先生、私が亡くなった時は、あそこにある賃貸アパートを売って相続税を払ってください。息子にも妻にもそのように言っておきますから」
これらから分かることは、資産家の方の多くは、
「税金がかかるなら仕方がない。きちんと払います。ただその後の事を考えて欲しいです」
そう言ったことを要望されているのです。
これが中小企業の社長様ですと、「石橋先生、この領収書、経費になりますよね~」みたいな話になると思うんですが、資産家の方ですと、細かい税金云々よりも、もっと大きな流れの話をされることが多いと思います。
ですから税理士も、それを踏まえて、「相続税が高くなります安くなります」と言った話ばかりでなく、大きな流れを意識する必要があります。
※娘と訪れた文房具屋さんの前にて。招き猫がお金を運んでくれるといいのですが。
(3)家族の悩み
ご家族の悩みを聞くことがあります。
- 家族(子供、兄妹、親戚など)と仲が悪い
- 家族が病気だ
- 家族が仕事をせず遊んでばかりいる
- 相続問題で揉めている
家族の悩みをお聞きした時、私が心がけていることがあります。それは、
「時間が解決する」
ということです。
例えば、 家族間で仲が悪い場合、そのどちらが一方が先に亡くなるということがあります。
結婚や離婚などで、家を出る場合もあるでしょう。
ご家族が病気でも、新しい治療法が発見されるかもしれません。
また、相続問題で揉めている場合も、こちら側から動くわけではなく、頑張って待ちの姿勢で臨み、相手側から「このように分けましょう」「もらえないから遺留分侵害請求します」といった連絡が来るようにすれば、こちらが心配しすぎないで済みます。
美空ひばりさん(作詞:秋元康さん)の歌で「川の流れのように」という名曲がありますが、その中の歌詞のように、時に身を任せれば、すべては時間が解決してくれます。
※もちろん、必要な相続対策はしっかりやった上でのことですが。
私も色々なご家族を見てきましたが、その当時は問題を抱えていても、家族構成の変化や居住場所の変化などによって、 時間の経過によって、状況は刻々と変わります。
それによって問題が解決することも多々あるものです。
ですから、 税理士が悩みに答える場合には、自身の過去の経験を踏まえて、遠回しに、時間が解決するということを説明すべきだと思います。
信頼されるためにはどうすれば良いのか?
悩みを相談されるためには、お客様から信頼いただかなければなりません。
税理士資格を持っているだけで、ある程度の信頼感を得られるでしょう。
ですが、ご家族の悩みといった、デリケートな悩みまで相談されるためには、さらなる信頼を頂く必要があります。
そのためにはどうすればいいか、 私なりに考えてみました
(1)優しくなる
失礼な言い方になるかもしれませんが、お客様に対して優しくなる必要があります。
これは誰でも分かることなのですが、ではどうやって、お客様に対して優しく接することができるのでしょう
これには、税理士が育った家庭環境が大きく影響してると思います。
よく、「おばあちゃん子は優しい」なんていわれますが、実際、 ある程度当たってると思います。
私がお付き合いしている税理士先生で「この先生は優しいなあ」 と思った先生のご家族の事を聞くと、小さい頃、 おばあちゃんと同居していた場合が多いように感じます。
※もちろん、 おばあちゃんと一緒に暮らしていない税理士先生でも、優しい先生はいらっしゃいます。
また、その先生がどのような人生を歩んできたかということも関係してると思います。
税理士資格を苦労なく取得され、お客様もすぐに付いて順風満帆。
このような場合、お客様のご苦労を分からない可能性があり、お客様に対して優しくなれない可能性があります。
なんでもかんでも優しければ良いというわけではないのでしょうが、基本的に、優しい税理士でないと、資産家のお客様の顧問にはなれないと思います。
(2)目先の損得を考えない
目がギラギラしているビジネスマンっていませんか?
家族と一緒に街中を歩いていると、たまに、スーツにベストを着込んで、光沢がかった高そうな生地でオールバック、目がぎょろっとして、浅黒い肌のビジネスマンを見かけることがあります。
それを見た妻が、
「あの人、目がギラギラしてるわね~。不動産屋さんかしら?」
世の中の不動産業者様、申し訳ありませんm(_ _)m
ですが、世の中の普通の人は、そのような見方をするということです。
税理士も気を付けなければなりません。
以前、ある高齢の資産家の方(女性)から、 このような相談を受けました。
「石橋先生、私も独り身ですから、亡くなった後の処理を司法書士先生にお願いする予定です。この前、銀行さんから紹介された司法書士先生に会ったんですが、とにかくお金お金っていう感じで、目がギラギラされていらっしゃったんですよね。他に、お知り合いの司法書士先生っていらっしゃいませんか?」
この資産家の方は、別に、費用をケチっているというわけではありません(むしろ他の方よりも多く払っていただいている方です)。
ですが、お金お金という人は、 相手側に「お金だけで判断してしまうんじゃないか(お金にとらわれすぎて本当に良い選択をしてくれないのではないか)」という印象を与えてしまうんですよね。
税理士もこのようにならないよう、気をつける必要があります。
※夜の隅田川で撮影。
悩みを文字にする
お客様のお悩みをお聞きしたら、その悩みを文字起こしすることが有効です。
※できれば箇条書きにしてあげて、印刷してお渡しすると良いでしょう。
悩みを文字にすると、もやもやが消えます。
もやもやの原因が、ハッキリと分かるからです。
※曖昧にしておきたいこと(先延ばしにしておきたいこと)が、ハッキリするからなんですね。
これは、有名なコラムニストである勝谷誠彦さん(2018年逝去)も、そうおっしゃっています。
※こちらの本は、絶版となっておりますが、現在活躍されている様々なジャンルの方が、どのような苦労されてきたのか分かるので、おすすめです。
ですから、 定期的な打ち合わせの後は、相談内容を書いた簡単なメモを渡してあげと、その項目を一緒に考えると、お客様はお喜びになられるでしょう。
悩みを相談された方にもパワーが必要です。
実際、 私もご相談を受けて、3時間ほど重い内容のお悩みを聞きすると、翌朝、 すごい疲労感に襲われることがあります(^^ )。
ですから税理士の方も、 いつでもご相談が来ていいように、 心身ともに、いつも健康である必要があります。
私も現在、子育てで疲れ気味であります(長女4歳、長男1歳)。
先日も、 お客様(70代資産家の女性)から、土曜日に緊急の電話が、携帯電話にかかってきました。
30分ほど、風呂場に篭ってご相談に乗りました。
最後の最後の方になって、お客様から、
「声がよく響くんだけど今どこにいらっしゃるのかしら?」
と言われたので、
「子供がわーわーくるので、風呂場に閉じこもって電話しています」
とお答えしたら、
「そんな時に本当にごめんなさい」
と、おっしゃっていただきました。
ですが、個人の税理士は、 お客様の悩みにいつでもお答えできるよう、 常に準備をしておく必要があると思います。
サラリーマン税理士のように「仕事は平日だけ。土日はしっかり休もう」なんて姿勢では、お客様が本当に困った時、お手伝いできないと思うんですよね。
これからもお客様に真っ先に相談される税理士を目指して頑張りたいと思います。