数年前の出来事です.
初めて会うご相談者様から、
「石橋先生にご依頼したとして、もし、石橋先生に、もしものこと(事故や病気で死んでしまうこと)があったら、私達はどうなってしまうんでしょうか?」
というご質問いただいたことがあります。
※ぶっちゃけて言うと「あなたが亡くなった場合の、バックアップ体制はできているんですか?」というご質問です(^^ )
これは、 個人事務所で仕事を行う人間(弁護士、税理士、フリーランス)の、最大の弱みと言えるでしょう。
このようなご質問は、もっともなお話しです。
特に、税理士を「真剣に」選ばれようとする方達にとっては。
ですが、「長所と短所は表裏一体」であり「弱みの反対は強み」です。
何事も、メリット・デメリットがあるのです。
私が考える、大手税理士事務所と個人税理士事務所との違いは、次のようなものです。
- 大手事務所は、同じ担当者に、長期間・継続して相談ができない
- 大手事務所バックアップ体制が(ある程度)しっかりしている
- 大きな事務所は、大きな仕事に向いている
私自身、個人事務所で色々な経験をしました。
また、大手事務所に勤めている友人税理士からも色々聞いています。
さらには、大手事務所から私に税理士変更があった方も何人かいらっしゃったので、大手事務所の仕事ぶりも肌で感じています。
今回は大手税理士事務所・個人の税理士事務所の違いにフォーカス当てて考えてみたいと思います。
※守秘義務の関係で、事実を少し変更して記載しています。また、文中にある意見は個人的意見であることを申し添えます。なお、特定の税理士事務所、 弁護士事務所を挙げたものではありません。さらには、事実を若干変更して説明しています。予めご承知おきください。
※某大型ホテルから眺めた有楽町の風景。
大手税理士事務所のホームページを見ると?
まず考えたいのが、大手税理士事務所の定義です。
私の中では、従業員(税理士+職員)が20名~30名以上の税理士事務所です。
「え?たったの20人~30人以上なの?」
という疑問を抱かれるかもしれません。
ですが、そもそも税理士事務所は労働集約型の事業で、専門家集団になります。
扱っている仕事の内容が特殊で、かつ、人も定着しにくいので、大規模化しにくいんですね。
私が見た感じ、税理士事務所は次のように分類されます。
- 超大型事務所・・・従業員100人以上
- 大型事務所・・・従業員30人以上
- 中堅事務所・・・従業員10人以上
- 個人事務所・・・従業員10人未満
- ひとり税理士事務所・・・1人(事務員さん入れて2名の場合もあり(^^ ))
ちなみに、私が目指しているのは「ひとり税理士事務所」です。
※事務員さんが1人いるので、正確には「1.5人事務所」かもしれませんが・・・。
ところで、最近は、ほとんどの税理士事務所がホームページを作っています。
そして、「職員紹介」なるページがあったりします。
そこの「職員紹介」ページを「定点観測」すると、税理士事務所が抱える構造的問題が分かってきます。
大手事務所の弱み、個人事務所の弱みを、「職員紹介ページ」から読み解いてみたいと思います。
大手事務所の弱み
同じ担当者に継続して相談ができない
大手税理士事務所の「職員紹介」のページは、だいたいこんな感じになると思います。
左上から、 偉い人順、ベテラン順、に並んでいたりします。
※ または縦一列で並んでる場合もあるかもしれません。
ところで、大手税理士事務所のホームページを数年にわたって定点観測していると、 あることがわかります。
それは、職員が定期的(毎年または数年ごと)に入れ替わっているということです
例えば、こんな感じです。
定期的に見ると、下にいた人が上にスライドして上がっていたりします。
※「あんた、そんなことしてて、暇だね~」というツッコミはなしでお願いします(^^ )
1年ぶりに見たら、全員が入れ替わっている(変わらないのは所長税理士先生と、そのご子息だけ)、というホームページを見たことがあります(^^ )
これを見ると分かる通り、税理士事務所は人が定着しないことが多いんです。
というのも、労働環境が劣悪で、とにかく忙しいからなんです。
ある大手税理士事務所の所長先生のお話を聞いたところ、
「いや~。若手に仕事を覚えさせてやってるんだから、むしろ、お金をもらいたいくらいだよね~。」
まあ、丁稚奉公的な感覚が残る世界なんです。
※オレの背中を見て仕事を覚えろ!という職人堅気な世界でもあります(^^;)
新規開業を積極的に支援している税理士法人なんか、1年ぶりにホームページを見ると、3分の1くらい職員が入れ替わっていることがあります。
※1年前は、ヒラ税理士だったのに、副所長のすぐ下くらいに来ていたりして(^^ )
配置転換・担当変更がある
ブラック税理士事務所があるなか、ホワイト税理士事務所もあったりします。
ホワイト税理士事務所は、待遇が良いので社員がなかなか辞めないのですが、も配置転換や担当変更があったりします。
例えば、若手社員が、
「経験を積みたいから、法人担当(普通の会社の顧問先の担当)から、資産税担当(相続税といった難しい案件を担当する部署)に、担当を変えてください!」
と、所長に志願することもあります。
そうすると、当然ながら、その会社様を担当する人間が変更になってしまいます。
また、本人はそのこの先の担当を続けたくても続けたいという意思を持っていても、数年ごとに、あえて担当変更する税理士事務所もあります。
これは「担当者と社長様とが仲良くなりすぎるのを防ぐ」ためです。
大手金融機関(銀行等)では、2年ごとに配置転換(支店を移動)があります。
これは、融資等の手続きで、顧客との癒着を防ぐといった意味合いがありますが、税理士事務所ではちょっと違います。
所長税理士先生や、副所長の税理士先生が心配しているのが、
「その担当者が辞めたら、担当している顧問先も辞めた担当者についていってしまうのではないか?」
ということなんです。
※その担当者と社長様との相性が良く、その担当者の能力が高ければ、社長様としても、その担当者についていきたいと思うのも、仕方ないと思うのですが・・・。
管理されているので(お客様を思っての)勝手な行動ができない
大手税理士事務所の授業院は、勝手な行動は許されません。
※組織で動いているので当たりまですが。
ですから、勝手な行動は厳禁です。
例えばです。
あるお客様が、ご自分が貸していらっしゃる、老朽賃貸不動産を、
「一人で見に行くのは不安なんですけど・・・」
と、おっしゃったとします。
それを聞いた若く優しい担当者は、考えます。
「ご高齢のお客様が心配だ!お時間併せてついていって差し上げたいな・・・」
そう考え、上司にそのことを報告すると、
「それはお客様の問題なんだから、君がついていってはダメだよ!第一、それは不動産屋の仕事だよ!一緒についていって、何かあったら、キミ、責任取れるの?」
と、ピシャリと言われてしまいました。
これは一例ですが、社員は事務所(会社)に管理されている身分ですから、勝手な外出も行動も出来ません。
※お客様にとってプラスになると思っても、それを実行できないのが、サラリーマンの悲しいところです・・・。
※某大型ホテルからの眺め。
個人事務所の弱み
大手税理士事務所の弱み?は上記のようなものになりますが、逆に、個人税理士事務所の弱み御は何なんでしょう?
少し考えてみました。
所長の税理士先生に万が一があった場合に困るかもしれない
個人の税理士事務所は、良くも悪くも、所長の税理士先生で持っています。
その所長先生のお人柄が素晴らしく、かつ、実務能力が高いようであれば、事務所は安泰です。
お客様も満足し、仕事のミスもなく、従業員の人間関係も円滑で離職率も低くなりますので、いいことだらけです。
ですが、そんな事務所にも一つだけ問題があります。
それは「所長の税理士先生に万が一があった場合、どうなってしまうのか?」というものです。
ところで、「お山の大将」という言葉があります。
税理士事務所の所長先生は、良くも悪くもお山の大将ですから、その所長先生を補佐したり、意見を言ってくれる人は、いないことが多いんですね。
※そのようなサポートができる人は、仕事もできる人です。そのような人は、条件が良い事務所に転職したり、独立したりして、辞めていっちゃいますからね~(T_T)
そうなると、所長の税理士先生に、万が一があった場合(例えば事故や病気で急に亡くなってしまった場合)はどうなるか?という問題があります。
突然ですが、個人が経営している税理士事務所の所長先生が亡くなると、その地域の税理士会(その地域の税理士をまとめている組織)から、ハガキが届くことがあります。
そのハガキには「今いるお客さんはどうしますか?」みたいなことが書いてあり、
- 今のお客様の引き継ぎ先が決まっている
- 今のお客様の引き継ぎ先が決まっていない
- 未定
- 引き継ぎ先があったら教えて欲しい?
みたいなことが書いてあったりします。
※地域ごとに違うかもしれませんが。
お客様としては、その税理士先生の魅力・実務能力があったからこそ、お願いしていた訳です。
また、税理士業の特徴として「顧問先の変更が大変」という問題もあります。
※今まで、どのような処理をしていたのか、会社・社長様個人にどれくらい資産・負債があるのか。家族構成はどうなのか?。引き継ぐ事項がてんこ盛りなんですね。
所長先生が亡くなると、その事務所は解散するかもしれません。
そうなると、お客様は、また最初から、税理士を探す必要があるかもしれませんね。
これが、個人事務所の最大の弱みだと思っています。
実際に私も、所長の税理士先生が急死した事務所の相談を受けたことあります。
その相談者さん(職員さん)は、事務所を引き継いでもらいたいというようなニュアンスでお話しされたんですが(申し訳なかったのですが)私は、お断りしました。
というのも、そのお客様の「顔」が見えないからです。
※そのお客様は、その亡くなった所長先生とご相性がよかったからこそ、長くに渡ってお付き合いが続いてきたわけです。必ず、私とご相性が合うとは限りませんので・・・。
ところで、「所長の税理士先生が急死した場合」問題は、私にも言えることです。
その対策としてできるのは、事務員さんに、
「私が死んだら。**先生にすぐに電話するよう!その際は、万事取り計らってくれるから!」
というように、伝言しておくことでしょうか・・・。
※実際に、そのようにお願いしてあります(^^ )
難しい案件に対応出来ない
税金は難しい。
最近、特にそう思います。
その難しい税金の事を色々知っているのは、個人の税理士事務所では、
- 所長の税理士先生
- 副所長の税理士先生
- (資格を持ってないが)ベテランの番頭社員さん
くらいでしょうか。
ですが、そのベテランの先生方であっても、以下のような案件には対応できないと思われます。
- 数社が絡む複雑な組織再編税制・グループ法人税制の有利不利の判定
- 海外税制が絡む問題
- 100単位近くの複雑な土地評価
- SPC(不動産の証券化)
これらの問題は、本で調べることは簡単です。
ですが、具体的な手続きや問題点は、実際にその手続きをしたことがある人でないと分かりません。
大手税理士事務所であれば、大型案件が、銀行や資産家の紹介経由で入ってきます。
それらの案件を、専門部署で経験者が対応しますから、安心感があります。
ただ、町の個人の税理士事務所に、そのような難しい案件は滅多にきません。
ですが、まれに来た時、どうしても対応しなければならないときがあります。
そのようなときに考えたいのが、「難しい案件の対処法を知っているか?」ということです。
私が今まで担当した案件で「難しいなぁ~」と感じたのは、次のような案件です。
- 1件の相続で100単位近くの土地評価・預貯金評価
- 組織再編税制の中級難易度の申告
- 十数億円以上の銀行借入の返済計画、大手銀行との交渉
- 相続税の物納で、国税局担当者様とのお話し合い
- 不動産物件売却のための周辺資料の整備
どんな資格(弁護士・税理士・司法書士・弁理士)でもそうでしょうが、 一人で世の中全ての案件を解決できるわけでありません。
専門が分かれていますからね。
弁護士であれば、家事問題に強い弁護士もいるでしょうし、渉外(国際)問題に強い弁護士もいるでしょう。税務に強い弁護士もいます。
税理士も同じです。
全ての税務問題を、一人の税理士が解決できるわけないのです。
ですが、経験を積んだ税理士であれば、難しい問題が来たら、
「この問題は**さんに相談してみよう!」
と言う「ひらめき」が出ます。
その時に大切なのが、ただ漠然と、その専門家に相談するだけではいけません。
まずは解決策の概要を調べ、そのうえで、専門家に相談しに行くのです。
そうすることによってより良い解決策が見出され、自分自身の経験値も上がるのです。
税務問題であれば(お金はかかりますが)その分野に強い専門税理士に相談すれば、解決策がが見つかるでしょう。
また、税務署(国税局)との折衝には、OBの税理士先生の力も有効かもしれません。
大切なのは、自分のスタンスと合う専門家(私のスタンスは「お客様のために」ということですので、その目的に共感して下さる専門家)を、普段から探しておくことです。
それが、個人の税理士事務所にとって必要なことなんです。
マンパワーが必要な案件に対応出来ない
数年前の出来事です。
ある男性の資産家の方から相談を受けました。
8ヶ月ほど前に父が亡くなり、遺産を相続したというのです。
現在の税理士に、相続税を計算してもらっているとのことで、だいたい、納税額は数億円となったそうです。
ですが、問題はその税理士先生の対応のようなんです。
とにかく、居丈高で高圧的な口調でお話になり、説明も毎回違うんです、とのことでした。
そのため、(相続税申告があと一ヵ月後に迫っているなかで)税理士を変更したいということで、ご相談にいらっしゃいました。
このような案件ですが、残念ながら、期限の関係で、私の手には負えません。
※財産の内容をお聞きすると、土地が20単位ほどあり、預金口座も十数個あるとのことでした。
相続税申告を多くしている税理士であれば分かると思うんですが、土地評価、名義預金チェックも含めて、結構な時間がかかります。
私は、この案件だけに、かかりきりになれば、終わるかもしれません。
ですが、街の個人の税理士には、他にもお仕事があります。
会社の決算から始まって、お客様の家族との相談、あげくは従業員の指導等々・・・。
なので、このような仕事(短期間でマンパワー=多くの人手)が必要とされる仕事は、(たとえその仕事をこなす技量知識があったとしても)お受けするのは難しいでしょう。
※某大型ホテルから皇居を眺める。
お客様と長くお付き合いできる個人事務所を目指すためには?
大手税理士事務所と、個人の税理士事務所との違いについて考えてみました。
「ひとり税理士」という言葉があります。
※「ひとり税理士」という言葉は、あの有名な「IT 税理士」の井ノ上先生から来ています。
私が目標とするのは「究極のひとり税理士」です。
※事務員さんが1名いるので1.5人税理士かもしれませんが、切り捨て計算なら1人です(^^ )
「究極のひとり税理士」とは、次のように定義しました。
- 全案件に所長が対応する
- 単純作業だけを事務員さんにお願いする
※難しい事は、真剣に対応する開業税理士にしかできないという考え方によります - 難しい案件の対処方法や解決方法、紹介先を知っている
- お客様だけでなく、その沙希のご家族様もご心配差し上げる
- お客様のお話をしっかりとお聞きする
- お客様にしっかりとご説明差し上げる
- 上記を実行するためには「ご心配差し上げたい」という気持ち・モチベーションが大切なので、その気持ちが分かってくださるお客様とだけお付き合いする
個人の税理士事務所の良いところは、
「お客様と長くお付き合いできる」
ということにつきます。
以前、あるお客様から次のようなこと言われました。
「石橋先生のお話は、難しくてよく分からないことがありますけど、私のことを心配してくれるのだけは、すごく伝わってきました」
これは、個人で開業している税理士に取って、最高の褒め言葉です(^^ )
大手の税理士事務所、個人の税理士事務所。
それぞれ、一長一短があります。
そのどちらを選んだら良いのか?
これは、もう、お客様に経験して頂くしかありません。
「以前、大手の税理士事務所で担当者がコロコロ変わったから、長く担当になってくれる事務所がいいな!」
と思われたら、個人事務所がいいでしょうし、
「以前の事務所は、事業承継について、何の提案もなかったから、しっかりとした提案をしてくれる大手事務所がいいな!」
と思われたら、大手事務所がいいでしょう。
※あるお知り合いの方で、大手事務所と個人事務所との両方に並行して依頼されている、いわば「使い分け」ている方がいらっしゃいます。こうなると、もう、税理士選びの上級者といっていいかもしれません(^^ )
この記事が、これから税理士を選ぼうとされている方、税理士事務所に就職を考えている方等の参考になればと思います!