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個人の減価償却の間違えやすいポイント(強制償却・耐用年数)

個人の減価償却の特徴は「強制償却」であると言われています。

これは減価償却したくても、したくなくても、必ず減価償却しなければいけないということです
※法人であれば任意償却なので、減価償却しなくてもいいのですが・・・

その「強制償却」であるがゆえに。起きる問題があります。
今回は、それらを検証していきたいと思います。

※友人と鬼子母神(豊島区)に行ってきました。

なぜ個人の減価償却は強制償却なのか

個人の減価償却は「強制償却」であると言われています。
根拠は所得税法49条です。

居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として第三十七条(必要経費)の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする

長い条文ですが、ポイントは一番最後の「する」というところです。

これが法人税では「・・・に達するまでの金額とする。」(法人税法31条)とされていますので、達するまでの金額(つまり本来の減価償却額)よりも、少ない金額を減価償却しても問題ないことになります。

偉い先生の解説で、

「個人は法人と違っていい加減だから、きちんと減価償却しないでしょう。だから減価償却しても、しなくても、きちんと減価償却したものとして計算するように規定したのであろう」

という趣旨のものを見かけたことがあります。

耐用年数の改正

拙著(2021年10月下旬発売)を書く際に、過去の減価償却の改正について、様々な文献にあたり、調査を尽くしました。

そちらにも記載したのですが、建物については平成10年に耐用年数が変更となっています。
一例をあげれば次の通りです。

鉄筋コンクリート造 改正前(平成9年まで) 改正後(平成10年以降)
事務所用 65年 50年
住宅用 60年 47年

※建物について、全般的に耐用年数が約10%~20%、耐用年数が短縮されています。

この改正は、平成10年以降に取得した建物のみならず、改正前に取得した建物(つまり平成9年以前に取得・建築した建物)についても、適用されます。

ここら辺が、我々税理士の感覚と違うところです。
建物の取得費や取得年月日は、原則として相続があったとしても、当初のものを引き継ぎます。

言い換えれば、いったん確定処理した数字・日付は変更しないという感覚・週間を税理士は身につけています。

しかしながら、この耐用年数の改正は、その考え方を覆すものです。

昨年までは65年を使っていたのに、今年から50年で計算してくださいね、というのは、我々税理士だけでなく、一般納税者にとっても馴染みにくいものです。

この改正は20年以上前の出来事ですから、私を含めた若手の税理士は、このような改正があった事実を知らない人が多いと思います。

また、当時の税務雑誌や書籍を調べ尽くしましたが、法人の減価償却については盛んに「耐用年数が変更になる」とアナウンスされていましたが、個人についてはあまりアナウンスされていませんでした。
※個人については、確定申告特集なる記事で、少しだけ触れられるといった感じでした。

しかしながら、国税局内部職員が書いているという、大蔵財務協会発行の、確定申告書作成手引きの平成10年版の某ページに、下記の記述があることを発見しました。

※建物については、耐用年数が短縮され、平成9年以前から有している建物についても平成10年分の減価償却費の計算から短縮された耐用年数が適用されます。

さらには、現在も第一線でご活躍されていらっしゃる某先生の雑誌論文にも、同様の記載があることを発見しました。

※いずれも、国会図書館で調べました。大変でした(^^ )

しかしながら、このような改正には反発もありました。
国税不服審判所で、減価償却費や未償却残高について争った方も複数います。
「耐用年数がこんなに短縮されるのは、おかしいだろう」として。

これらについてを調べ尽くしましたが、以下のような理由により、いずれも納税者が負けています。

※一例を挙げれば、次のような裁決になるでしょうか。同様の裁決が複数あります。

そのため、税理士に依頼せず、個人で確定申告書を作っていた方は、この改正を知らず、古い耐用年数(長い耐用年数)のままで計算している方もいるでしょう。

※隅田川の夜景。

改正の経緯

もともと、この耐用年数の改正は、

「諸外国に比べて、わが国の建物の耐用年数が長すぎる」

ということから始まり、平成9年12月に、税制改正大綱で提案されたことがきっかけです。

そして、そのまま改正が実現し、平成10年以降は新耐用年数を使う、ということになりました。
※ただし、法人は事業年度の関係で、適用時期が異なります。

今はインターネット時代ですから、税制改正の内容は国税庁のホームページを見ればすぐに分かります。
また、これぐらい重要な改正については、国税庁のホームページで何度も何度も告知するでしょう。

しかし、20年前のことを考えてみてください。

ブログという言葉はなく、ホームページを作成している公的機関もまだまだ少なかったと思われます。
ましてや、国税庁がここまで情報発信するのは、ここ10年くらいだと思います。

不動産関係の税金(不動産所得、相続税の計算)については、このように、数十年前の税制改正が影響することがあります。なので、ベテランの税理士先生が有利なんですよね。

※大手町にて撮影。

新規顧問先・既存顧問先の耐用年数を確認すべき

以上のように、建物の耐用年数は平成10年で改正されました。

木造などについては、もともとの耐用年数が20年程度ですから、平成10年の改正があったとしても、すでに償却が終わっており、あまり影響がないことも多いでしょう。

しかし、先ほどの例で挙げたように、鉄筋等の建物については、元々の耐用年数が長いですから、まだ減価償却が続いていることも多いと思われます。

恥ずかしながら、私はこの改正を、平成23年に開業する時まで知りませんでした。

そして、この改正を知った後、過去の顧問先様の資料を見させて頂き、正しく処理されているか確認しました。

そうしたところ、個人の方については、平成10年の確定申告書を見ると、確かに、耐用年数が60年から47年に変更されていました。

一方、法人のお客様の中には、耐用年数が65年(事務所用)のままで計算している方もいらっしゃいました。
※法人は任意償却なので、本来の減価償却費以下の金額を計上していても問題ありません。

税理士が関与しているのであれば、平成10年に耐用年数を変更していると思われ、問題はないでしょう。

しかし、税理士をつけずに、納税者本人が不動産所得を計算している場合、間違えている可能性も否定できません。

間違えて過少に減価償却していた場合、過去5年分については更正の請求を行うことができますが、それ以前については救済措置がありません。

また、過去の償却額が間違っていた場合でも、正しい償却費に引き直して(正しい減価償却が行われていたものとして)未償却残高を計算しますから、譲渡所得の取得費計算にも影響してきます。
※国税局の内部研修資料で、そのような注意書きがなされたものも見受けられます。

この2点について確認するようにしましょう。

個人の減価償却は、年1回の確定申告時しか計算しませんから、とかく甘く考えがちです。
しかしながら、突き詰めて考えると、意外と難しい事がわかります。
手を抜かず、真剣に税務と向き合いたいものですね。

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