勤務している税理士が、これから開業するためには、いくつかの壁があります。
その壁の種類ですが、次のようなものがあると思います。
- 営業の壁
・・・お客様に、どうやって選んで頂けるか? - コミュニケーションの壁
・・・税理士は(私も含めて)基本、ネクラなので、どうやって明るく振る舞うか? - 知識の壁
・・・税務の知識だけでも手一杯なのに、他の知識も必要
今回は、一番最後の「知識の壁」について、考えてみたいと思います。
※某ホテルで出された朝食。
まずは税務の知識が必要
「税理士=税金の知識がある人」と思われています。
ですので、最低限の税金の知識が必要になります。
では、街の個人税理士は、どの程度まで税務の知識があれば良いのでしょうか?
これは、「地域性によって異なる(=開業場所によって異なる)」ということが言えると思います。
例えば、私は、東京都中央区で開業しました。
このあたりは、大企業が多く、中小企業様はあまりいません。
ですが、所得が高い方が住んでおり、地位のある方(お医者様、不動産オーナー様、弁護士先生)も多いです。
さらには、士業の先生方(弁護士先生・司法書士先生等)も多いので、そちらの先生方からのご相談も多くなる傾向があります。
※弁護士先生は、頭が良く、(当たり前ですが)条文が読めますので、質問も難しくなる傾向があります。
そうなると、広範囲な税務知識が必要になるかもしれません。
ですが、これが、東京の中心から外れますと(例えば23区から外れる地域等)、そこまで広く、難しい知識は必要ないのかもしれません。
中小企業の法人税申告、個人の確定申告(小規模な事業所得や不動産所得)を抑えておけば、とりあえず開業できると思います。
必要な知識の一覧
私は、平成23年に開業したので、開業して7年が経過しました。
この間、必死に走り抜けてきましたが、そのなかで、
「開業時に、この知識が必要だったなぁ~」
というものを、一覧にしてみました。
参考にしてみてください。
※中小企業の法人税申告、小規模な所得税の確定申告といった、最低限の業務ができる前提です。
分野 | 項目 | 内容 | 必要度 |
税務 | 相続税 | 遺産1.5億円くらいまでの相続税申告 | ○ |
相続税 | 簡単な不整形地の土地評価 | △ | |
相続税 | (財産評価通達に基づいた)簡単な株価評価 | △ | |
還付 | 更正の請求書の書き方 | △ | |
労務 | 定期的な 手続き |
定時算定、労働保険申告の流れ、36(サブロク)協定の必要性 | ○ |
臨時的な 手続き |
従業員の入退社時の手続き、月額変更(給料が大幅に増減した場合)、出産育児の手当金申請 等 | ○ | |
給与計算 | 給与計算の方法、控除される社会保険料の計算 | ○ | |
適用対象者 | 社会保険の加入が必要な社員の時間条件等 | ○ | |
障害年金 | 障害年金の種類、もらえる条件 | ○ | |
外国人雇用 | 外国人従業員のビザが適正に取得できているか | ○ | |
登記 | 役員変更 | 数年毎の定期的な役員登記、定款変更による任期延長、遅れによる罰金額等 | ○ |
変更登記 | 役員変更、本店住所変更の手続方法 | ○ |
一番重視したいのが、「労務(=社会保険)」の知識です。
社会保険の専門家は、社会保険労務士(略称として「社労士」とよびます)ですが、この社会保険労務士の先生にお仕事をお願いするためには、窓口の税理士が、
「**があったとき、○○の手続きが必要だ」
ということを知らないといけません。
私の実例としては、次のようなものがありました。
- 従業員の残業が多い
・・・36協定(さぶろくきょうてい)の書類作成が必要ということを会社にアドバイス。 - 外国人従業員を雇っていた
・・・雇用時に外国人のビザを確認したのか、雇用形態は適正なのか若手社長にアドバイスした。
(※どちらかというと、「入管」という行政書士先生の分野になりますが) - 従業員が障害を負ってしまった
・・・社長様との何気ない会話に出てきましたが、「障害年金がもらえるかもしれない」と社長にアドバイス。
なお、社会保険の手続きを確認したい場合は、私は、下記の書籍をお薦めしています。
他にも色々な知識(不動産の賃貸借契約の考え方、税務上の借地権)が必要ですが、最低限、上記の知識を身につければ、とりあえず独立できるのではないでしょうか。
独立するなら、ある程度の知識で見切りをつけるべき
※某ホテル宴会場のピアノ。
税理士が必要な知識とは、どれくらいなのでしょうか?
これは、その税理士の「専門性」によると思います。
では、「専門性」って、なんでしょうか?
私が開業したときは、特に専門性といえるものは、ありませんでした。
ですが、これは、ある弁護士先生のお言葉です
「まず、来た仕事を受ける。そして、専門性が自然とできあがるです。」
これは開業を考えている税理士に、ズバリ当てはまると思います。
開業しないと、どのようなお客様が来るか分かりません。
※開業した場所の立地、自分の性格、それらを総合して、自然と増えてくる分野というものがあるはずです。
そして、そのお仕事を一生懸命すると、自分なりのノウハウが蓄積されます。
さらには、その専門性を見込んで、さらにさらにその分野のお仕事が増えるはずです。
私が7年間で身につけた専門性?(お恥ずかしいですが・・・)は、
- 相続税
・・・1件で土地評価60単位以上の相続税申告をする
・・・遺産総額数十億円の相続税申告もする - 不動産の管理・運営
・・・不動産オーナー様からのご相談にお答えする - 更正の請求
・・・難しい更正の請求(単発のお仕事)が何件か持ち込まれる - ピアノ弾き語り
・・・お客様にスマホに録画した弾き語り動画をお見せする
・・・自分の事務所の電子ピアノで弾き語り演奏を披露する
ということで、
「税理士×相続税×不動産×ピアノ弾き語り」
といった専門性になっていると、自分では分析しています。
ですので、
「独立したい。でも、知識が不安だ・・・」
といことで、心配事が知識だけなのであれば(=開業資金等の問題がクリアになっているのであれば)、とりあえず開業してみてはどうでしょうか?
知識は後から付いてきますので。
※ただし、必死の努力が必要です。
当初は心配で心配で、寝れない日々が続くことだけは、肝に銘じてくださいね(^0^)