少子高齢化の日本。
後継者不足で廃業する中小企業も多いです。
この波は、税理士業界にもおよんでいます。
最近、友人税理士2人が、税理士事務所を引き継ぎました。
また、私自身、お知り合いの税理士先生から「事務所を引き継がないか?」と、お声がけ頂いた事もあります。
※私の場合は、引き継ぎませんでした。理由は最後に書いてあるとおりです。
そこで、事務所を引き継ぐ際のリスク、引き継いだ方が良い税理士、といったことについて、少し考えてみました。
※守秘義務の関係で、少し事実を変えています。
※朝5時の茅場町交差点。
事務所の引き継ぎが起きる場合とは?
所長先生が高齢や病気でリタイアされる場合、普通、次の3つのパターンになります。
- 二代目の税理士(所長先生の息子)が引き継ぐ
- 長年勤務していた従業員税理士が引き継ぐ
- 他の第三者の税理士に事務所ごと(従業員含めて)売却する
所長先生の息子さんが税理士になっているなら、息子さんが後を継ぐのが自然です。
また、所長先生の身内が税理士になっていないのであれば、長年勤務していた従業員税理士が後を引き継ぐことになるでしょう。
さらには、上記2つのいずれにも当てはまらないようでしたら、第三者の税理士に事務所ごと(いまのお客様と従業員をまるごと)売却することになるでしょう。
※実際、大手税理士法人は、どんどん地方の個人事務所を買収しています。知り合い税理士が「石橋君。先日、ある温泉街(※昔からあるひなびた温泉街)に旅行に行ったんだけど、こんなところにも**税理士法人の支店があったよ~」と、おっしゃっていました。
事務所引き継ぎのリスクとは?
どんな事業にもリスクがあり、税理士事務所といえども例外ではありません。
税理士事務所を引き継ぐと、短期間で多くのお客様を獲得できますが、次のようなリスクも考えられます。
- お客様が離れるリスク
・・・お客様は、結局は、その担当者「個人」についてきています。 - 従業員が離れるリスク
・・・従業員も、その所長先生の人望・やり方についてきています。 - 潜在的な税務処理リスクの引き継ぎ
・・・(気づいていない)今までの間違った処理を引きつぐことになります。
これらのリスクを総合的に考えながら、事務所を引き継ぐか、引き継がないかを決めることになります。
どのリスクを一番に考えるかは、その引き継ぐ税理士の考え方によるでしょう。
経営者型のイケイケ税理士であれば、とにかく売上・売上でしょうから、お客様が離れるリスクを最大限に考えるでしょう。
また、人情型?税理士であれば、今いる従業員の待遇を一番に考えてくれるかもしれません。
私の場合は、一番最後の理由の「潜在的な税務処理リスク」を考えてしまいます。
例えば、こんなリスクが考えられるのではないでしょうか?
- 以前の申告書・届出書を保管していない
・・・資料がないので、税務署に対して、過去の鉄続き(贈与等)の立証挙証がしにくい - 間違いやすい税務処理
・・・相当の地代、無償返還、不動産管理会社で間違ったスキームを採用している場合等は(顧問先への説明も含め)変更していくのが大変
他の税理士先生の申告書を見直すと、やはり疑問点は出てきてしまいます。
※私が作った申告書も、同じように「この税理士、なんでこんな処理したんかな~」と言われていると思いますが(^^)
それぞれのリスクがどれくらいか?
引き継ぐ際は、慎重に検討した方がよいでしょう。
※晴天の国会議事堂前にて。
事務所を引き継いだ方が良い税理士
街の税理士事務所というと、所長先生含めて、3名~15名前後の事務所が多いと思います。
それらの事務所には、税理士が1名(または多くても2名)在籍しているのが通常ですので、その所長先生が高齢で引退されたり、お亡くなりになられた場合は、誰か、他の税理士が、事務所を引き継がなければなりません。
私の友人税理士2人は、それぞれ次のパターンで事務所を引き継ぎました。
今まで勤務していた事務所をそのまま引き継ぐパターン
所長先生が高齢、かつ病気で引退される、ということで事務所を引き継いだ友人税理士がいます。
立地は、東京の中心から少しズレたところで、昔から開業しているので、良いお客様が多くついていらっしゃるそうです。
従業員は5名~6名前後でした。
その税理士は、経営者感覚があり、かつ、男気があるので、気弱税理士?である私は、よく相談しています。
「**という難しい案件なんですが、判例、裁決、全て調べたんですが、これでいいですかね~?」
と聞くと、その友人税理士は、
「石橋さんが調べ尽くしたというんだから、それで合っているんじゃないですか~」
と、心強い?意見をくれます。
その税理士は、今まで長年、勤務していたわけですから、お客様と従業員のことをよく知っています。ですが、
- 今までのお客様は、前の所長先生を慕ってついてきてきてくれたこと
- 今までは従業員と同じ立場であった人間が、ある日突然、所長という立場になること
この2点が、今回の引き継ぎの難しさだと思います。
引き継ぎの話しがでてくると、口の悪い税理士先生は、
「あいつは、簡単に売上アップできて、いいなあ」
と、おっしゃる先生もいらっしゃいます。
ですが、そうではないのです。
その友人税理士も、かなりの苦悩を抱え、事務所「経営」をしています。
税理士になるような人間は、基本、お勉強は好きなのですが、人を使ったり、他人と交渉するのは苦手です。
しかし、事務所を経営するということは、それらの考え方も習得しなければなりません。
ですから、
- 人を上手く使いこなせること
- ミスを受け止める広い心を持つこと
- 少々のことで動揺しないこと
これが、事務所の引き継ぎする税理士に、必要なんだと思います。
全く関係ない事務所を引き継ぐパターン
もう1人、友人の税理士(私と同い年で40歳前後)で事務所を引き継いだ人がいます。
その税理士は、私と同い年なのですが、明るい性格で、ユーモアのセンスも持ち合わせている、ある意味、すごい税理士です。
※私は尊敬しています(*^_^*)
その税理士ですが、自宅で開業していたのですが、知り合いのつてで、ある高齢の税理士先生の事務所を引き継ぐことになりました。
その高齢の税理士先生の事務所は、次のような状態です。
- 従業員は5名前後。
- 従業員の高齢化が問題(最高で65歳くらい?)
- 所長にあまり報告せず、従業員が結構、自由に仕事をしている
- 場所は東京23区で、結構良い場所にある
この状態で、40歳前後の若手税理士が、
「ど~も。3ヵ月後から次の所長になる予定の、税理士の**です!」
と、挨拶に来られたら、その事務所、どんな状態になるんでしょうか?
普通であれば、嫌ですよね。自分より一回り、二回りも年下の人間が来るなんて。
ですが、この友人税理士のすごいところは、懐柔力?とでもいうんでしょうか、とにかくコミュニケーション力と、ガッツがすごいんですよね。
※私は本当に、その部分は尊敬しています(*^_^*)
なんとか、高齢の従業員達ともコミュニケーションをとり、二回りくらい年下の所長先生になれそうです。
※現在も悪戦苦闘中ですが!
ここからも学びがあります。
それは、やはり、単なる税務知識だけあってもダメで、事務所の引き継ぎには、コミュニケーション力や、その人の人間的魅力が必要になるんですね。
※日比谷の某ホテル前にて。
事務所を引き継がないという選択
今までの説明のように、事務所を引き継ぐには様々なリスクがあります。
私の性格上、まるごと、その先生の事務所(お客様+従業員)を引き継ぐというのは、やはり難しいです。
従業員を引き継ぐということは、お客様だけでなく、その事務所の従業員の人生に責任を持たなければいけません。
※その従業員だけでなく、その奥様や、お子様の生活の責任を持たなければなりません。
また、お客様を選べないということもあります。
普通の会社の場合、「お客様に選んで頂く」ということが優先されます。
ですが、税理士事務所は、それだけでなく、
「お客様を選ぶ」
ということが大切になってきます。
こう言うと、上目線のようでお客様に大変失礼な言い方に聞こえますが、そうではないのです。
真面目な税理士であればあるほど、四六時中、お客様のことを考えます。
ですが、その税理士の心配が、お客様に届かないと意味がありません。
ですので、本当にお客様を大切に思うのであれば、お客様を選ぶ必要があるんですね。
ちなみに私は「丸ごと」事務所を引き継いだことはありませんが、年配の税理士先生から何件か、お客様を引き継いだことがあります。
この場合、事務所を丸ごと引き継ぐようなリスクはありませんが、それでも、
- そのお客様へ最大限のお手伝いができそうか?
(税理士とお客様との考え方が合いそうか?) - 過去の税務処理に問題はないか?
といったことを検討し、そのお客様へ最大限貢献ができそうであれば、お引き受けするようにしています。
※結構、お断りした案件もあります。
税理士事務所を丸ごと引き継ぐ場合、その税理士は、単なる税務処理だけでなく、人事面、経営面、あらゆることに目を配る必要があります。
※ですから、今まで通り、自分の勉強だけ、自分の仕事だけ、という訳にはいきません。
勉強よりも、そちらの方が得意だ、合っている、というのであれば、事務所を引き継いでもいいでしょう。
ですが、私のように、それらが苦手であり、自分自身に投資してより成長したい、というのであれば、引き継がないで、自分の目の届く範囲内でやった方がいいでしょう。
これから開業する税理士先生、開業したばかりの先生は、ご自身の性格、経験、これからの展望を考えて、引き継ぐか、決めた方がいいと思います。
お互い、頑張っていきましょう!