税理士事務所には、色々な相談が寄せられます。
そのなかでも「不動産」についての相談は、色々な問題(経営的な部分、税金的な部分)が多く、なかなか難易度が高いものです。
私が相談をお受けした、不動産に関する相談の中で、特徴的なものピックアップしてみました。皆さんの不動産についての悩みの一助になれば幸いです。
※守秘義務の関係で、事実を若干変更しています。
※某地方駅の線路にて。
公務員で不動産投資をしている人
数年前ですが、公務員の方(某**市役所勤務とのことでした)で、不動産投資をしている方から相談を受けたことがあります。
その方は、すでに自分で5つほど賃貸アパートを持っており、エクセル表を使って独自に収益分析をされていらっしゃいました。
いまは、ご自分で確定申告をしているのですが、物件数が多くなってきたのと、節税のアドバイスを含めて、不動産に詳しそうな税理士に依頼したい、ということで相談にいらっしゃいました。
その方のエクセル表みると、確かに、ものすごい力作になっています。
数年前にチラッと見ただけなんですが、記憶を思い出すと、次のような表になっていました。
- A3ヨコ形式
- まず、その物件ごとの外観写真がある
- その下に、「物件所在」「最大家賃」「平均家賃」「収益還元率」「借入金の残債」「借入利率」等がずらっと書いてある
このエクセル表を見て、私がまず感じたのは、
「この人、仕事中にこの表を作っているんじゃないか?」
というものです(^_^)
※某市役所の公務員って、忙しくないんでしょうか・・・。まあ、部署にもよると思うんですが。
さらには、ご本人は、
「この分析表のポイントは**になっていまして・・・」
と、私に熱く語ります。そして、その分析を定期的に行っているそうです。
※なおさら、私の「あんまり仕事していない疑惑」は深まりました(^^)
このように、独自に勉強されていらっしゃいますが、このような方に考えていただきたいのは、不動産投資の「出口戦略」です。
この相談者様は、このような立派な表を作るだけあって、難易度の高い物件ばかり保有されていたんですね。
例えばですが、
- 再建築不可で築数十年の賃貸アパート
- 私道の一番奥にある不便な賃貸アパート
- 立地が悪い(ちょっと治安が悪そうな地区にある)賃貸アパート
これらは、安く買えるので、収益率(家賃÷購入価額)で見ると、確かに高い数字になるでしょう。
ですが、出口戦略(不動産投資をやめる場合)は、なかなか売れないでしょうし、売れても想定価額よりも大分低い価額になってしまうでしょう。
また、修繕費を甘めに見積もっていることも多いです。
※修繕費は業者事によって見積もりはバラバラですし、何より施行が問題です。
売却なり、大規模修繕なりした場合、今までの家賃収入を全て吐き出す結果になってしまうかもしれません。
難易度の高い物件ばかり多数保有すると、かなりのリスクを抱えることになると思います。
ですから、サラリーマンが不動産投資をするのであれば、難易度が高い物件を複数保有するより、一般的な物件(通常の賃貸アパート)一棟から始めるのがいいと思います。
ところで、最近、「海外不動産への投資が熱い」と言う話を聞きます。
※アメリカの「****不動産」といったようなものです。
具体的には、築数十年の木造の投資物件を購入し、4年で建物の減価償却費をとる、というものです。
※最初の4年で多額の減価償却費を計上できますので、高額な給与所得がある方は、給与所得と不動産所得(損失)を通算できます。
そして、売却時には譲渡所得税が約20%かかります。
つまり、55%(所得税+住民税の最高税率)と20%との差額(約35%)分を節税できる、というスキームです。
しかし、このスキームでは、不動産が購入時の金額から値崩れしないで売れることが前提です。
※これ以外にも、税制改正でダメと言われるリスクもあります。
不動産投資は、出口戦略を考えておかないと危ういと思います。
※スカイツリーの遠景。
まずは一棟からと堅実に始められた大手企業勤務の人
上場企業に勤務されている方で、不動産投資を始める方も多いと思います。
上場企業に限らず、中小企業もそうなのですが、
「副業は禁止とする」
という服務規定がある会社が多いと思います。
※不動産投資が副業に当たるかどうかは、その会社にもよるかと思いますが、その方は会社に確認したところ、OKとの事だったので、始められたそうです。
この方、土地の仕入れ(購入)から、ご自分でじっくりとお決めになりました。
具体的には、有名な不動産業者からの話を聞き、かつ、不動産業者が開く「不動産投資セミナー」にも騙されず?に、自分でどの土地が良いのか?という土地の仕入れから始められました。
不動産投資(賃貸アパート経営)は、開始10年ぐらいはいいのです。
新築で綺麗ですから、何もしなくても入居者が集まります。
ですが、その後が問題です。
ある程度、物件が古くなってくると、雨漏り等の大規模修繕をしなければいけませんし、何より、近くにまた新しい賃貸物件が建築されてしまう可能性があります。
よって、周辺調査は重要です。
※自分で実際に、平日、土日を歩いてみることも大切です。
また、この方は勉強されている方で、独自でその自治体の助成金制度を調べ、新築するにあたって、その自治体から助成金を数百万円ゲットしました。
※古い木造家屋がある町並みは火災がおきるかもしれないということで、自治体によっては、古い木造家屋を壊して耐火建築物を新築する場合は助成金を出しますよ、と言う制度を設けています。
さらに、家賃の保証会社を大手ではなく、地元の不動産屋さんと結びました。
そして、そこの営業社員に、(社長さんの許可を得て)「にんじん作戦」を実行しました。
※「にんじん作戦」とは、空室が出て、営業社員が速やかに入居させて場合、その成約した営業社員に家賃の0.5ヵ月分くらいを直接払う、という作戦です。空室が2ヵ月間生まれるより、そちらの作戦ですぐに入居してもらった方が、良いですからね。
他にも色々な工夫をしていらっしゃいます。
※ご自分で部屋の紹介ビデオを撮影する等です。
不動産投資を成功させるコツの一つとして、
「自分で商売をしている気持ちで行う」
ということが挙げられます。
商売をしているんですから、接待(にんじん作戦)もしますし、営業(内観のビデオ撮影)もしなければなりません。
不動産投資は、それくらい時間をかけてするものなのです。
肝に銘じておきましょう。
番外編(色々な不動産会社の社長さん)
不動産会社の社長さんからも、色々な相談をお受けすることがあります。
ズバリ言うと、
「不動産業者は玉石混交である」
ということです。
※玉(=真面目で誠実な方)」は少なく、石(=納税意識も低く、稼ぐだけ稼ぐという方)の方が多いと思いますが・・・。
悪い?不動産屋さんは色々見てきましたが、なかでも私が良くないと思うのが、
「影のオーナー問題」
です。
※私が勝手に名付けているのですが。
影のオーナー(実質的な経営者)は、表にでてきません。
※会社謄本をとっても、役員欄には、影のオーナーの名前がありません。
普通、会社の経営者は「社長」なり「会長」なりで、その会社を代表します。
そして、会社謄本には記載されてくると思います。
ですが、代表にはならない。
なぜでしょうか?
そこには、色々な問題(ここでは書けませんが・・・)があると、疑ってみる必要があるかもしれません。
※もちろん、きちんとした理由がある方もいると思いますが。
ですが、真面目で誠実に仕事をしている不動産会社さんがあるのも、また事実です。
誠実な人ほどもうからない、という業界構造になっているので、これは何とかしてもらいたいですが・・・。
※最近話題のシェアハウス投資についても、色々と言いたいこと、知っていることがあるのですが、守秘義務の関係で、このあたりで終わりとします。
不動産投資をしない、という選択肢もある
ちなみに、私は、今は不動産投資をしていません。
それは「本業に時間がかかって、考える時間がない」からです。
以前、実家が事業用物件(賃貸オフィスビル)を持っていたので、その運営に携わったことがあります。
その物件は築40年ほど経っていたので、大規模修繕が必要であり、かつ、法令の不備が予想される建物でもあったので、なかなかに難しい物件でした。
事業物件(会社やオフィス向けの物件)物件の難しいところは、様々な選択肢があるということです。
飲食店に貸せばいいのか、物販店に貸せばいいのか、オフィスにすればいいのか。
一旦飲食店にすると内装はかなり痛みます。
※居住用物件(賃貸アパート)であれば、そのような選択をする必要はありません。事業用物件よりも居住物件が難易度が低い、と言われるのはこのためです。
ですが、さきほどのご説明のように、不動産投資を始めるには、
- 綿密な勉強
- 冷静な判断力
- そして何より努力と時間
が必要になります。
そのような時間をとれない方、ラクして稼いでやろう、という方にはオススメできません。
また、(これはその人の性格にもよるのでしょうが)かなりの心労が伴います。
- もし火事になったらどうしよう
- もし入居者が自殺したらどうしよう
- もし空部屋がいっぱいだったらどうしよう
といったように、様々な心配事が増えてしまうわけです。
不動産投資を始める前に、色々と考えてみてくださいね。