居住用財産の3000万円控除を使う際に気をつけたいこと

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納税者が自宅(マイホーム) を売却して利益が出た場合には、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例(いわゆる「3,000万円控除」)の適用を検討することになります(租税特別措置法35条1項)。

この特例、 申告書の作成はさほど難しくないのですが、適用を受けられるかの判断で迷う場合があります。

今回は、この3,000万円控除について、考えてみたいと思います。

※夜の日銀前の風景。

居住実態の判定に気をつける

3000万円控除は、納税者が実際に居住していた不動産について適用されます。

ここでの「居住」とは、本当に住む意志があったかどうかで判断されますので、居住期間の長短は問いません。

・・・ということになっているのですが、実際は居住期間が短いと(譲渡所得の内訳書に居住期間を書くことになっています)、税務調査の可能性が高まります。

私が以前お世話になった不動産屋さん(現在は鬼籍に入られました)が、

「まあ、一般的には3年ぐらい住んでいなきゃだめなんじゃないですか」

と、よくお客様におっしゃっていました。

「税理士ではないのに、何言ってんだ」

とおっしゃられる方もいるかもしれませんが、これは結構、的を得た発言です。

私は以前、この居住の実態判断で相当悩んだことがあります。

10年以上前の案件です。
(守秘義務があるのでぼかしますが)自宅に長期間(十数年)に住んでいなかったが、遠方から自宅に戻ってきて、1年ぐらい滞在して売却したという案件です。
※他にも複雑な背景があります。

過去の判例や裁決例、さらには書籍(税務署OBが書いた書籍が中心)を徹底的に調べると、税務署は一貫して「総合判断する」としています。
※要は、「本気で住むつもりでしたか?」と聞いているのです。

過去の判例や裁決例では、気になる内容があります。
その内容を私なりに要約すると、

「居住していた期間は関係ないけれども、この特例が3年に1回しか使えない事を考えると、まあ、普通は3年ぐらい住んでなきゃダメじゃね?」

となるでしょうか。

ですから先ほどの不動産屋さんが言っていた説明も、 あながち間違ってはいないわけです。

※居住した直後に、 会社の転勤命令が下り、やむなく転居したというような、きちんとした理由がある場合は、居住期間の長短は関係ないものとされています。

入居当初から本気で住むつもりがあったか?入居期間はどれくらいか?
これらを総合的に考えると、 やはり適用できないという結論になりました。

3000万円控除の特例は、長期所有の場合の軽減税率(租税特別措置法31条の3)も併せて適用できることが多いものです。

そうすると、税負担が約1,000万円近く、減ることもあるので、納税者はぜひこの特例を使いたいと思うのが、自然な気持ちです。

ですが、税理士としては、間違ったお仕事はできませんから、そのような場合は適用できない旨を説明し、どうしても適用したいと言うのであれば、他の税理士先生をあたっていただくということになるでしょう 。

家屋を売却しているか確認する

この特例は、原則として、家屋の売却により適用を受けられます。
そして、家屋と一緒に土地を売ると、 その土地も一緒に特例を受けられる、という法律構成になっています。
※例外として、取り壊してから一定条件(一定期間内の売却など)のもとに売却すれば、適用することもできます。

ですから、土地を家屋と一緒に売っているかを確認しましょう。

なお、家屋と一緒に売っているんだけれども、売却価格の内訳が「土地1億円・建物0円」となっていたら、 どう考えればいいのでしょうか?

「土地は確かに売却(譲渡)したが、建物(家屋)の価額は0円となっており、建物は譲渡してないことになってしまうのではないか?そうすると、建物を売却していないものとして、この特例の適用を受けられないのではないか?」

私も以前はこのような疑問がありましたが、名古屋国税局の文書解答事例があり、建物の譲渡対価が0円であっても、適用を受けることができるとされています。

確かに、建物を取り壊して譲渡しても適用を受けられるわけですから、それとなんら違いがないわけで、適用を受けられるのは当然とも考えられます。

ところで、15年ほど前でしょうか。
ある方から、3,000万円控除の相談が寄せられましたが、ちょっと???という事案でした。
具体的には、家屋に居住していたのではなく〇〇(内容は秘密(^^ ))に居住していたというのです。
※今回売却した土地の上に、ある〇〇を置き、そこに住んでいたというのです。

租税特別措置法の条文では「家屋」と定義されていますので、そのまま当てはめるのであれば、〇〇は家屋ではありませんから、適用を受けられないことになります。

ですが、その方は確かに〇〇に住んでいたというのです(^^ )
※〇〇の正体を明かせないので、 もどかしいところでありますが・・・。

実際、その時は「3000万円控除の適用あり」として申告しましたが、 特に税務署から連絡ありませんでした。
忙しいから見ていないのか、きちんと見たのに問題ないと判断してお咎めなしだったのか、それは分かりませんが・・・。

※早朝の東京駅の風景。

写真を撮っておいた方が良い場合

店舗と自宅が一緒になっていた場合(1階が店舗・2階が居住用)は、居住用部分(自宅部分)に対応する部分についてのみ、3,000万円控除を適用することができます。

ただ、このように、1階と2階とが明確に区分されているのであれば問題ないのですが、なかには、5階建ての建物のうち、1階と5階を賃貸に出しており、 2階・3階・4階を自宅利用していた、なんて場合もあります。

そのようなときは、税務調査の時に問題にならないよう、建物内部を、写真なりビデオなりで、記録しておいた方が、万が一税務調査があった時に、きちんと 説明することができるので安心と言えます。

単発の譲渡所得のみは気をつける

世の中には色々な方がいらっしゃいます。

なかには、

「実際に住んではいないのだけれども、この特例を使って申告したい(税金を安く申告したい)」

という方もいらっしゃいます。

最初にお伝えした通り、 この特例は実際に居住していることが要件となっていますので、申告する税理士の方も慎重に判断する必要があるでしょう。

特に、今まで顧問契約なり確定申告などしてこなかった、いわゆる一見さんの申告については特に注意が必要です。

以前、このような方がいらっしゃいました(守秘義務の関係で、内容はちょっとぼかします)

「3000万円控除の特例の申告をお願いしたいんです。今回の建物は本当に住んでいましたからね。前回の物件を売却した時は、休みの日に水道とガスを使いっぱなしにして、居住の実態を作ってましたけどね」

こんなことを仰る方は、たとえ今回の申告で本当に住んでいたとしても、お断りしたいところではあります・・・。

このような方は極端だとしても、 私を含め、税理士(特に若手税理士)は世間を知らないというところがあります。

むやみやたらに人を疑えというわけでありませんが、世の中にはいろいろな人がいるので、単発の譲渡所得の申告、とりわけ3,000万円控除については特に気を付けるべきでしょう。

※横浜のタワーマンションが乱立している地域にて。

納税者は売却益が出ないと思っていることも多い

以前は、 十数年住んだ中古マンションは、新築購入時の値段から2割~3割、価格が下がることが普通だったと思います。

ですが、都心のマンション価格の高騰の影響を受け。このようなマンションであっても新築購入時とほぼ同じ値段で売れるといったことも珍しくありません。

税理士であれば、

「建物の減価償却費の控除があるんだから、新築購入時と同じ値段で売れたとしても譲渡所得がかかる」

ということは分かります。

ですが一般の方はそのようなことは知りませんから、譲渡所得が発生しないと考えている方も多いものです。
ですから税理士が譲渡所得の相談を受けた時は、常に譲渡所得が発生するのではないか? と考えてアドバイスしてあげるべきでしょう。

居住用の3,000万円控除は、簡単なように見えて、意外と奥が深いものです。

以前、他の税理士先生から、このような相談を受けたことがあります。

「お客さんに3000万円控除の報酬として〇〇万円を請求したんだけど、高すぎるって言われちゃった。この請求額って、どう思われます?」

居住用の3,000万円控除は、申告書作成自体は、そんなに時間がかかりません。

ですが、

  • 本当に適用できるのか(居住の実態があったかの確認)
  • 適用できなかった場合は税負担がいくらになるのか(加算税含む)
  • ふるさと納税の上限額への影響
  • 社会保険料への影響

その他にも色々な検討事項があります。

ですから、数万円なんて金額で申告を受任すると、費用倒れになってしまいます。

特例の適用可否の判断、お客様との相性、請求金額、これらを総合的に考えて申告の受任を判断することが必要でしょう。

相続税よりも譲渡所得の方が難しい。
最近、私はそう感じています。

譲渡所得の申告を受ける際は、色々な注意が必要になりますね。

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